第十二章 暴走サラが田島に呼ばれたのは一週間後だった。研究室に呼ばれることは初めてではないが、二人だけで話をするのはそれほど多いことではなかった。 「何でしょうか。教授」 「すまんが鍵をかけてくれ」 サラはすぐ施錠した。 「君は何も聞いてないと思うのだが……」 「何でしょうか」 田島はちらとサラの顔色を伺うそぶりを見せた。 「アメリカの研究チームが、全滅した。オアシスフラワーが暴走して、すべての研究員が犠牲になったらしい。最悪なことに、発見が遅れてしまって状況がよく掴めないのだが」 サラは愕然とした。秘密裏の花の存在が世間に知れるのはまずい。それより、ワイズマンの安否は。一瞬で様々な思考がサラの脳裏をよぎった。 「そんな。彼らは真相に近づいていたと言ってました。長年研究して、最もノウハウに長けていた彼らがどうして」 「詳しいことはわからん。知ってるものは倒れてしまったし、生存者も皆、軍事病院に隔離されたという話だ。こちらからは直接連絡を取る先がない」 「そんな……」 「そこでだ、私の悪知恵に協力してくれないか」 田島がパソコンのモニターのスイッチを入れると、パスワードの入力画面が表示された。 「私が、研究所のパソコンにハッキングしたところ、まだデータが生きてるようだ。どうかね。君の持ってる情報を全て私と共有してくれれば、必ずアメリカの研究情報を引き出せる自信がある。無論、無理強いはしないし、君が望まないなら私は諦めよう」 サラは無表情のまま、思考を巡らせた。 実は、サラには全てのセキュリティーをフリーパスで通過できる、秘密のプログラムソフトを託されていたのだ。 万が一のために、ワイズマンから預かっていたのだ。これで、研究所のデータは全てにアクセスできる。 だが、これを使うと必ず使用者の履歴が残る。そのログを消すには、向こうのパソコンからの処理手順がいる。唯一の懸念はそれだが。 アメリカの研究所は、絶えずオアシスフラワーの様子を映像で記録しバックアップすることを続けていると聞いている。 それが生きていれば、いきなり事件の真相にたどり着くかもしれない。ワイズマンの安否も気になる。 「わかりました、教授。すぐやりましょう」 「君の英断に感謝するよ」 |